一人ひざカックン
手をぐぐぐっと伸ばしてつかまる高さがどんどん変わってゆく
40cm
45cm
50cm
乳児にとっての5cmは大人の10cmとは言い過ぎか
どうだろう
もしコンビニの棚が1ヶ月おきに10cm高くなっていったら
そんな無茶な想像をしてみる
コンビニの店員さんに「あの商品取ってください」なんて
生まれてこのかた一度も言ったことがない
そう大抵は手の届く範囲に『もの』はあるのだ
届かないものを手にできる喜びはどんなだろう
顔を見ればわかる
楽しくてしょうがないのだ
今は冷凍庫の取っ手とテレビ台の高さがお気に入り
冷凍庫にはすでにストッパーをつけて
自分で引き出して頭をゴツンとするドリフのコントはさせないようにしてある
そしてテレビの前ではひざをカクカクさせながら画面の動きを追いかけている
きっと頭の管制塔では
ひざをピンと立てる司令とテレビを見る司令が行ったり来たりしているのだろう
管制官がパニックになったとき
ストンと床に尻餅をつく
ダンスのようにも見えるそれは僕が中学生の頃に流行ったひざカックンそのもの
そーっと相手の背後に近づき
ターゲットの膝裏に自分のひざをロックオンできるかどうかが勝負なのだ
「なにするんだよぉ〜やめろよぉ〜」
そんな声が教室のそこら中で響き渡るほどひざカックンが大流行した
ひざカックンを狙うやつのひざカックンを狙うという高度なテクニックも身につけた
ダブルひざカックンだ
ボーナスが100点入る
それが目の前にいる生まれて8ヶ月の息子は
この歳(と言うのか?)で中学生だった僕の流行を取り入れている
しかも相手いらずの一人ひざカックンという新技を編み出して
僕の生まれて14年目のひざカックンとの出会いはいったい何だったのか
いつかそんな時期がなかったかのように
つかまり立ちを卒業するのだろう