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はじめに


「死にたい」と思ったことが一度もない。そんな人が一番身近にいると知った時、私はとても驚いた。なぜなら私にとって「死にたい」という思いとは、もう20年以上の付き合いがあったからだ。

現代はSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)でも死にたいとつぶやく人がたくさんいるような時代である。2018年に国連が発表した世界幸福度ランキングでは、日本は156カ国中54位、また2017年自殺対策白書では、人口10万人あたりの自殺死亡率では日本はワースト6位。これらのデータを参考にすれば、日本には死にたいと思う人が世界でも多いほうだと言える。

 私が「死にたい」という思いが強くなったのは、16歳~20歳くらいの時だった。虚しいという言葉がぴったりで、毎日が無味無臭。楽しいことがないわけではなかった。しかしカミカゼ特攻隊のように、半ば強制的に死を遂げられたらどれだけいいことか。戦争で亡くなった方やそのご家族には命を粗末にするような考えで大変申し訳ないが、本当にそう思っていた。どこか漠然と死ねたらなという感覚が時々頭をもたげていた。

これは、心理学者エリクソンの社会発達理論にあるアイデンティティーの模索というこの時期によくある不安定な心理と考えることもできる。しかし私にはもっと重大なことが潜在意識に隠されていた。詳細は後述するが、それは私が32歳のとき、初めてのカウンセリングで明らかになった。

 時が経ち、今の私は「死にたい」とはあまり思わなくなった。歳を取ったこともあるかもしれないし、子供が出来て自分のことばかりを熱心に考える時間がなくなったからかもしれない。

ただ、私は自分の生い立ちを時間をかけて整理してきたことで、死にたい思いを手放せたのだと思っている。過去の自分に起こった心身や行動に現れたストレス反応が、母との関係に起因するものだと理解し、そして愛せたとき、私から憑き物が落ちたかのように、「死にたい」という思いがだんだんと顔を出さなくなった。今では随分と安定した心を保てるようになったと思う。

死にたい思いは生きづらさであり、それは多くの場合、親子関係に起因することを、私は8年間のメンタルヘルスの仕事現場からも学んだ。今まさに生きづらさを抱えている方に、私の体験が少しでも役に立てればと思う。

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